2026/08/21 14:50
アフリカの低い椅子を見ると、少し不思議に感じるかもしれません。
WOUETがキュレーションしているヴィンテージの木製スツールも、今よく見かけるダイニングチェアのような高さではなく、どれもかなり低めです。
「これは何に使う椅子なんだろう」
「本当に座るためのもの?」
そう思う人もいるかもしれません。
私自身、アフリカの古いスツールを見ながら、
「床に近い暮らしをしていたから、こんなに低いのかな」
と思っていました。
考えてみれば、日本にも畳の上で正座をし、ちゃぶ台を囲むような、床に近い暮らしがありました。
家具の高さは、単なるデザインではなく、その土地で人がどの高さで食べ、話し、働き、時間を過ごしてきたのかとも深く関係しています。
では、アフリカの低い椅子も同じなのでしょうか。
調べてみると、理由はひとつではありませんでした。
そもそも、アフリカの椅子はすべて低いわけではない
まず知っておきたいのは、「アフリカの椅子=低い椅子」ではないということです。
アフリカ大陸には数多くの民族や地域文化があり、椅子の形も用途も非常に多様です。
背もたれのある椅子、高さのある椅子、王や首長のために作られた装飾的な椅子も存在します。
スミソニアン国立アフリカ美術館も、アフリカのスツールには驚くほど多様な形があり、休息のための道具であると同時に、美しさや威信を表すものもあると説明しています。
その中に、WOUETで扱っているような、地面や床に近い位置で使う小さな木製スツールがあります。
では、なぜこうした椅子は低く作られたのでしょう。
暮らしの高さから生まれた椅子
現在の私たちは、テーブルと椅子をセットで考えることに慣れています。
ダイニングテーブルの高さが決まり、それに合わせて椅子の高さも決まる。
けれど、伝統的なスツールの中には、高いテーブルと組み合わせることを前提としていないものがあります。
地面や床に近い場所で作業をする。
食事や飲み物を囲む。
人と話す。
そうした日々の動作に合わせて、椅子の高さも自然に決まっていったと考えられます。
日本でも、畳に正座をして食事をし、ちゃぶ台を囲む暮らしが長く続いてきました。
そう考えると、低い椅子は決して特殊なものではありません。
その土地で人が暮らしていた高さに合わせて生まれた道具。
まずはそう見ると、アフリカのスツールが少し身近に感じられます。
低さそのものが、仕事のための機能になる
地域によっては、低い高さそのものが仕事に適していました。
アフリカのスツールは、単に休むためだけではなく、生活のさまざまな場面で使われてきました。
つまり、椅子の高さや形を考えるとき、
「何をするために使われていたのか」
を見ることが重要です。
私たちが今「デザイン」として見ているフォルムも、もともとは人の身体や仕事の動きから生まれた可能性があります。
装飾を先に考えたのではなく、必要な形を削り出していく。
その機能性が、結果として独特の造形につながっています。
椅子を持って歩く
もうひとつ興味深いのが、スツールの携帯性です。
スミソニアン国立アフリカ美術館が所蔵するギニアの木製スツールは、高さ約14.6センチ。楕円形の座面を4本の脚が支える非常に低い椅子です。
博物館は、このタイプについて一つの木塊から削り出されることが多く、持ち運びやすいため家庭だけでなく共同体の集まりでも使われたと説明しています。
さらにブルキナファソのロビ族には、もっと分かりやすい例があります。
スミソニアン所蔵の男性用三脚スツールは、所有者が肩に掛けて持ち歩くものでした。
しかも、それは単なる腰掛けではありません。
スツールを持って歩く姿そのものが、その人の社会的な立場を示すステータスシンボルにもなっていたとされています。
私たちは家具というと、
「家の中の決まった場所に置くもの」
と考えます。
けれど、こうしたスツールは少し違います。
家具が人を待っているのではなく、人と一緒に移動する。
小さく低い形には、そんな暮らし方も表れています。
エチオピアでは、コーヒーと椅子が近い
低い椅子について調べていて、特に興味深かったのがエチオピアです。
エチオピアでは、コーヒーが単なる飲み物ではなく、人と人をつなぐ日常文化として大切にされています。
ユネスコ・クーリエは、首都アディスアベバをはじめとする街で、人々が小さなスツールに腰掛け、道端で近所の人と話をしながらコーヒーを飲む光景を紹介しています。
さらに興味深いのが、エチオピア南西部ジンマのスツールです。
大英博物館の研究プロジェクトでは、ジンマ地方の三脚スツール「バルクマ」とコーヒー文化を一緒に記録しています。
プロジェクト名そのものが、
「三脚スツール(バルクマ)とジンマのコーヒー文化」
です。制作方法だけでなく、スツールの使われ方や社会的な背景まで現地調査されています。
ここまで見ると、低い椅子とコーヒーが同じ暮らしの風景の中に存在していることが分かります。
高いダイニングテーブルを囲むのではなく、もっと床や地面に近い場所で、人が集まり、話し、コーヒーを飲む。
その場に、小さな木製スツールがあります。
もちろん、
エチオピアの低い椅子が、すべてコーヒーセレモニーのために作られたわけではありません。
用途や形は地域によって異なります。
それでも、エチオピアの低いスツールを見るときに、コーヒーを囲む人々の風景を知っていると、その高さが少し違って見えてきます。
椅子は、ただ座るためのものではない
そして、アフリカの椅子を調べていくと、さらに面白いことが分かります。
椅子は必ずしも、
「座るためだけの家具」
ではありません。
スミソニアン国立アフリカ美術館は、アフリカの座具について、重要な人物が彫刻されたスツールや椅子に座り、より低い立場の人々は立つ、あるいは地面に座るなど、座る場所そのものに社会的な序列が存在する地域があると説明しています。
つまり、
誰が座るのか。
どの椅子に座るのか。
それ自体が、その人の社会的な立場を表すことがありました。
ガーナでは、椅子と「その人」が結びつく
ガーナのアカンのスツールは、その代表的な例です。
メトロポリタン美術館によると、首長が所有するスツールは政治的な地位や本人のアイデンティティと深く結びついていました。
重要な首長が亡くなると、そのスツールを煙や供物によって黒くし、祭壇に置き、亡くなった人物の霊とのつながりを保つために用いる例があります。
スミソニアンのアサンテのスツールにも、個人用の椅子は所有者の精神と強く結びついているため、基本的に所有者本人だけが座ったと説明されています。
使わないときには横向きに倒して置かれたとも記録されています。
ここでは椅子は、
単なる家具ではなく、
その人自身に近い存在
だったことが分かります。
マリ共和国・ドゴン族の特別なスツール
WOUETでも作品を扱っているマリ共和国のドゴン族にも、日常の腰掛けとは異なる特別なスツールがあります。
メトロポリタン美術館には、15〜19世紀に制作されたとされるドゴン族またはテレムの「威信を示すスツール」が収蔵されています。
複数の人物像によって座面が支えられた、非常に彫刻的な作品です。
こうした精巧なスツールは、ドゴン社会の宗教的・政治的指導者であるホゴンが所有したとされ、その造形にはドゴンの宇宙観との関係も指摘されています。
椅子という同じ形をしていても、
日常的に腰掛けるもの。
持ち運ぶもの。
社会的な立場を表すもの。
宗教的・政治的な意味を持つもの。
地域によって、その役割は大きく異なります。
暮らしの道具が、なぜ今は彫刻に見えるのか
WOUETで古いアフリカのスツールを見ていると、不思議に感じることがあります。
もともとは人が座るために使われていたシンプルな道具なのに、現代の空間に置くと、小さな彫刻のように見える。
一つの木を大胆に削り出した形。
厚みのある座面。
短く力強い脚。
完全には左右対称ではない輪郭。
木を削った跡。
長い年月の中で摩耗し、色を深めていった表面。
スミソニアン国立アフリカ美術館も、アフリカの家庭用品について、日常的な道具であっても作り手の美意識や技術が表れ、長く使われることで所有者の手や時間によって形づくられていくと紹介しています。
また同館は、木製スツールについて、伝統的な形が存在する一方で、作り手がその形式を一つの具体的な作品へと変換し、時には形を変えたり洗練させたりすると説明しています。
つまり、機能だけではありません。
暮らしの必要から生まれた形の中にも、作り手の感覚があります。
だから今、私たちが見ると、日用品でありながら強い造形として感じられるのかもしれません。
現代の部屋では、どう取り入れる?
では、こうした低いスツールを現在の暮らしに取り入れるなら、どう使えばいいのでしょう。
ソファの横に置く。
玄関や廊下の余白に置く。
植物や小さなオブジェの台にする。
あるいは、何も載せずに床に置く。
低い位置にひとつ形が加わるだけで、空間に視線のリズムが生まれます。
白い壁やモルタル、石、ガラス、ステンレスなど、現代的で無機質な素材と組み合わせると、古い木の表情はさらに際立ちます。
アフリカマスクや彫刻と一緒に置く場合も、同じ国や民族で揃える必要はありません。
たとえば、
エチオピアの木製スツールと、マリ共和国のドゴン族のマスク。
生まれた土地も、本来の用途も異なります。
それでも、木という素材、手仕事の跡、時間を経た表情が響き合い、ひとつの空間として調和することがあります。
異なる土地から生まれた作品を、自分の暮らしの中で新しく編集する。
それも、WOUETが提案したいアフリカンインテリアの楽しみ方です。
「なぜ低い?」から見えてきたこと
最初は、
「アフリカの椅子は、床に近い暮らしだから低いのかな」
と思っていました。
日本にも、畳や正座、ちゃぶ台を中心とした床に近い暮らしがあったことを考えると、その感覚も一部では重なるところがあります。
けれど調べてみると、理由はもっと複雑でした。
暮らしの高さ。
仕事に適した形。
持ち運ぶための小ささ。
人と集まるための道具。
エチオピアでは、コーヒーとともにある風景。
そして地域によっては、所有者の社会的な立場や精神性と結びつく特別な存在。
小さな木製スツールをひとつ見ているだけでも、その土地で人々がどのように暮らしてきたのかが少しずつ見えてきます。
だからアフリカの古い椅子を見るとき、
「どこの国、何族の椅子なのか」だけではなく、「なぜ、この形なのだろう」と考えてみる。
そうすると、単なる古い家具だったものが、その土地の暮らしから生まれた一つの造形として見えてくるかもしれません。
WOUETでは、そうした背景とともに、現代の空間に置いたときにも美しいと感じられる作品をキュレーションしています。
現在キュレーションしているアフリカの椅子
現在WOUETでは、エチオピア、ギニア、マリ共和国など、異なる土地で生まれたヴィンテージの木製スツールをキュレーションしています。
同じ「低い木の椅子」でも、座面の反り、脚の形、木の削り方、使い込まれた表面はそれぞれ違います。
文化背景を知ったあとに改めて見ると、その違いも少し面白く感じられるかもしれません。
アフリカには、スツールだけでなく独特な低い木製テーブルもあります。
WOUETでもエチオピアの木製テーブルをキュレーションしていますが、椅子とはまた違う用途や背景があります。
こちらについては、また別の記事で詳しく紹介したいと思います。
